大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1147号 判決 1961年12月18日
控訴人 破産者 大和電気産業株式会社破産管財人 安富敬作
右訴訟代理人弁護士 野玉三郎
被控訴人 寒川雄之助
右訴訟代理人弁護士 武藤達雄
右訴訟復代理人弁護士 小泉要三
被控訴人 酒井建設工業株式会社
右代表者代表取締役 酒井利雄
右訴訟代理人弁護士 稲沢清起智
右訴訟復代理人弁護士 小泉要三
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
当裁判所は控訴人の本訴請求は失当であつて、これを棄却すべきものと考える。その理由は左記のとおり附加するほか原判決説示の理由と同一であるからこれを引用する。
一、民法第四六七条にいわゆる債権譲渡の承諾とは債務者が債権譲受人又は譲渡人に対し債権譲渡の事実を了知した旨を表示する行為であつて観念通知にほかならない。而して被控訴会社は控訴人主張の裁判上の和解において債権譲受人たる被控訴人寒川に対し譲渡債権中金九五万円の支払義務があることを認め、これを昭和三四年四月から同年七月迄分割支払うことを約したことは当事者間に争のないところであるから右債権譲渡を右金九五万円の範囲において承諾したものというべく、このことは同会社が破産会社からの債権譲渡の通知の効力を認めたこととなんら矛盾するものではない。また被控訴会社が敗訴の場合を慮りやむをえず和解をしたものであるとしても、右和解が債権譲渡の承諾を前提とするものと解することになんらの妨げとなるものでなく、また裁判上の和解の性質をいかように解しようとも、右承諾の効力に関係がないことはいうまでもないから控訴人の当審における主張一はその理由がない。
二、破産法第七四条の規定は基本たる行為に否認の理由がない限りできるだけその対抗要件を具備させ当事者をして所期の目的を達成させる趣旨にでたものであるから、同条により否認の対象とせられる対抗要件充足行為も第七二条の場合と同じく破産者の行為であるか、強制執行のようにその効果及び行為の態様からみて破産者の行為と同視しうる行為であることを要するものと解するのが相当である。而して本件において問題となつている債権譲渡の承諾は破産会社の債務者たる被控訴会社がなしたものでありその行為自体は破産会社と全然関係がなく、破産会社と直接又は間接に通謀してなされたものと認むべき形跡もないのであるからその行為の態様上いかなる意味においても破産会社の行為と同視することができず、したがつて否認の対象となりえないものといわなければならない。このように解しても控訴人主張のように、債権譲渡の場合破産法第七四条の規定が空文化するものではなく、また登記を否認することができなくなると解すべき根拠もない。原判決の説明が否認の対象となる対抗要件充足行為はその主体を破産者に限るとしているようにうけとられるのは必ずしも十分な表現とはいえないが、被控訴会社のなした本件債権譲渡の承諾は否認の対象となりえないとする点は正当であつて、これと反対の見解にもとづく控訴人の当審における主張二もその理由がなくこれを採用することができない。
三、以上の次第で控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加納実 裁判官 沢井種雄 加藤孝之)